秋の近未来アクリル超大作 ; Sigh-Vogue戦隊レインボウ・レディーズ出動せよ
salco

春はパリコレ 流行色タレント装束方々で借りてスタイリスト貧乏暇なし
夏は汗じみ 満員電車空調効かずサラリーマンのスーツアンモニア臭くて頬に痒し
秋はアクリル China人件費高騰ウールマーク絶えサンキュッパ辺り皆化繊なり
冬はブーツ 足太きおんな出がけファスナーにあたら苦労 脱げば地獄漂いわろし


Chapter1 ; プロローグ

はびこる悪を駆逐するため、某某大学工学部の協力を得て厚生労働省と警視庁が共同開発した老女サイボーグの特別機動捜査隊・その名もレインボウ・レディ
ーズ(公募愛称RaLa=ララに決定)。
64〜79歳の年齢枠で集められた、ババア猩々緋しょうじょうひ ババア浅葱あさぎ ババア茄子紺なすこん ババア藤紫 ババア金茶 ババアうぐいす ババア銀鼠ぎんねずの7体で構成される。
一部身体機能は電動アシスト自転車と介護ロボットの機構を採用しており、フル充電12時間で連続4時間稼働。最高時速15kmで走行、握力右180、
左120、重さ200kgまでを片手で運搬できる。
視力、聴力、嗅覚 、味覚、触覚、内臓機能及び思考力の逐次劣化については現在、改善策を検討中。

武器その1・ 視覚牽制
アクリル肌着仕様の被服(ユニフォーム)は膝上丈20cmのミニスカートであるため、おおよその被疑者は大腿部を目撃しただけで戦意を喪失する。
あるいは、黒革ブーツの辺縁に突出した膝蓋骨、又は膝蓋骨下部に下垂した皮によっても同様の効果が期待できる。

服務規定によりババア・サイボーグは制帽下の頭髪をひと括りにまとめて「ひっつめ」「シニヨン」にしているが、必要に応じ脱帽して髪ゴムまたは髪止め等を
外し、これを被疑者に提示する事ができる。
皺だらけの容貌と、ざんばらと広がった艶のない半白又は総白髪との相乗効果により、被疑者の多くは戦意を喪失する。

アクリル肌着仕様の被服は肩口が面ファスナー(マジックテープ)で着脱可能であり、袖を外すと特有の二の腕を顕わす事ができる。これを被疑者に示すと、
下垂した皮を見て多くは戦意を喪失する。
あるいは劣化ゴム状に皺の寄った肌の老人斑または深く窪んだ腋下を間近で見せる事により被疑者の抵抗力を奪うことができる。

武器その2・ スマイル牽制
皺だらけの顔貌で微笑んだ瞬間、歯茎が痩せている為に部分入れ歯または総入れ歯が僅かに落下する。
または入れ歯と残存歯との色の違いが歴然としている。
または色の悪い歯茎が剥き出される。
これ等いずれかの視覚効果により被疑者は抵抗を諦める。
また至近で行なった場合は歯周病による口臭効果も発揮されるので、被疑者の多くは目眩または脳貧血に陥り、逃走を図れなくなる。

武器その3・ のど自慢攻撃
ババア・サイボーグは各自マメカラを1台ずつ携帯し、各自の十八番(「お夏清十郎 」、「愛染かつら」、「ひばりの佐渡情話」、「好きになった人」、
「雨の慕情」、「矢切の渡し」、「天城越え」等、各自任意)を独唱する事により遠隔位置から被疑者の逃走意欲を奪う事ができる。
被疑者の聞こえが悪い場合に備え、順番待ちの者が歌唱に合わせ手踊りや盆踊りを行なうので、視覚効果により上記の効力を補完する。

武器その4・ お小遣い攻撃
アクリル肌着仕様の被服格納部から取り出した乳房を被疑者に向け搾ると、乳首からカフェ・オ・レ色のエマルジョンが発射され、空気に触れた液体は約3秒間で粘着力が倍増し、被疑者の自由を奪う事ができる。
この液体は約1分で揮発により乾燥し固着するが、専用の剥離剤を塗布しなければ剥がせないほど強力なものである。
[技術提供・東亞合成(アロンアルファ)、アース製薬(ごきぶりホイホイ)、協和発酵ケミカル(社外秘バイオテクノロジー)]

武器その5・ ぬくもり攻撃
アクリル肌着仕様の被服に付帯する下穿き(ショーツ又は五分丈ズロース)を脱衣し、逃走しようとする被疑者に投げつけ 、あるいは被せる。
その温もりに触れた瞬間、戦慄により被疑者は身体の自由が利かなくなる。
無論、匂いだけは嗅ぐまいと反射的に息を止めるので、その点でも抵抗を封殺することができる。

武器その6・ 毒ガス攻撃
アクリル肌着仕様の被服上半身部を嗅がせると、強い加齢臭により被疑者は激しい目眩に見舞われ、一時的に呼吸 困難を来す。
アクリル肌着仕様の被服下半身部を嗅がせると、被疑者の多くは嘔吐または失神する。
精神的ショックの度合によっては心停止を起こす事例も報告されている。

注)武器その5、6については司法警察員の威嚇発砲同様に危険であり、流れ臭及び流れ温もりが一般市民を巻き込む恐れがあるので、被疑者確保に際して
身の危険がある場合のみ遂行が許可されている。

武器その7・ 拷問の禁止
刑事訴訟法第一九八条 其六 : いかなる場合も、被疑者の抵抗力を奪う為にババア・サイボーグはその唇に接吻してはならない。  
刑事訴訟法第一九八条 其七 : いかなる場合も、被疑者の心身の健康を損ない、生命をも危険にさらす恐れがある部位、器官をババア・サイボーグは露出又は提示してはならない。
刑事訴訟法第一九八条 其八 : 被疑者の基本的人権を損なう恐れのあるいかなる行為も、ババア・サイボーグは被疑者に行なってはならない。

武器その8・ 「はぃ?」攻撃
逮捕、勾留後の取調べ中、尋問に対する被疑者の応答が聞こえないため、「はぃ?」と訊き返す。
これにより保身の為の詭弁・抗弁を諦めた被疑者に、速やかに犯行を認めさせる事ができる。

武器その9・ 「えぇ?」攻撃
取調べ中、頑強に犯行を認めない被疑者に対しては 、「えぇ?」と畳みかける。
これによりいかなる権利主張、要望も事前に圧殺することができ、法定代理人との接見に要する被疑者の余剰体力・残存気力を奪う事ができる 。

武器その10・ 咀嚼・嚥下攻撃
取調べに於いて誘導尋問は憲法で禁止されており、裁判でも供述調書が証拠採用されない事から、被疑者の目前でロースかつ丼を食べる。
緩慢な咀嚼に於ける入れ歯と豚ロース肉、分泌の悪い唾液が奏でる超絶和音、嚥下時の喉鳴り・しわぶき等により被疑者は何としてもその場から逃れたくなって供述を開始し、苦痛のあまり供述調書に署名・捺印してしまう。


補足・ ババア戦隊レインボウ・レディーズの発足・配備以来、逮捕成績が飛躍的に向上したため犯罪発生率そのものがやや低下し、厚生労働省と警察庁はジジイ戦隊発足に向け試験段階に入った。しかし被験男性のほぼ全員が同性老人に対して強い耐性を示し、被験女性の多くも異性老人に対しては女性特有の忍耐力を発揮してこれを無視すると判明したので、はかばかしい効果が期待できないとして開発中止となった。
既に完成済のジジイ15体については、廃棄せずに公共施設の清掃員や駐輪禁止区域監視員などに有効活用するよう市民団体から意見が出されているが、公益性に比べてランニング・コストが大きいとして別の市民団体から反対意見が出ているため現在、検討中である。


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Chapter2 : レインボウ・レディーズ応答せよ

(指令ファイル ?113 ジャスコ品川西大井店へ急行し、窃盗犯を確保せよ)

ババア猩々緋 「はぇ? 何だって?」
ババア浅葱 「行けってさ。ジャスコの西大井だよ」
ババア鶯 「また組布団の万引かしら。秋だよねえ!」 
ババア猩々緋 「嫌だよ。あたしゃ今日は膝が痛むんだから」
ババア浅葱 「あら。すると雨かねえ、やっぱり明日は」
ババア猩々緋 「違う、ゆうべからだよ。全く嫌になるよ、毎度毎度」
ババア鶯 「じゃあきっと夕焼けが見事だよ、今日は」
ババア猩々緋 「湿布薬変えてみようかね。どうも効きが悪いようだ」
ババア浅葱 「そうだった!」
ババア猩々緋 「何だい、藪から棒に。えぇ?」
ババア浅葱 「きのう隣のお嬢さんからおみやげ頂いたの」
ババア猩々緋 「そんなことかい。大声出して何かと思えば」
ババア浅葱 「いえね、研修旅行に行ってたんだってさ。若いのに偉いもんだよねえ! こうやって独り身の年寄り気にかけてくれるんだもの」
ババア鶯 「あらあ。そりゃ感心だわ」
ババア浅葱 「最近の若い子たって捨てたもんじゃないよ。笹団子だよ、新潟の。お茶淹れるわ、わたし」
ババア猩々緋 「あたしゃ入れ歯の具合がよくないけど。大丈夫かねえ」
ババア鶯 「大丈夫ですよぉ! 黒文字の腹で細かく切ってさ、お茶で流し込んじまえば、歯の裏にくっつく事もありませんやね」
ババア浅葱 「あっ、いけない。忘れてた!」
ババア猩々緋 「何だい今度は」
ババア浅葱 「今日は確か1日だろ?」
ババア鶯 「そうだけど」
ババア猩々緋 「えぇ?」
ババア浅葱 「月々に、月見る月は多けれど、月見る月はこの月の月。月々に、月見る月は多けれど、月見る月はこの月の月。月々に……。ああ、よかった思い出して」
ババア鶯 「何ですね、そりゃ」
ババア浅葱 「おまじないだよ、おまじない。月初めにこれを3回唱えて置くとさ、いい事があるんだよ」
ババア猩々緋 「なあんだ、脅かさないでおくれよ。そりゃ水商売人のゲン担ぎか何かだろう? あたしら歴とした公務員なんだからさ、一生安泰だよ。えぇ? 天下のラアラじゃないかい。生涯現役だよ」
ババア浅葱 「それだってさ、信心に越したことないだろう。何でも日々の心がけが大切だと言うからね」
ババア猩々緋 「そうかい? そんなもんかねえ!」
ババア浅葱 「そうよ。先々の事なんか、後々なってみなけりゃわかりゃしないんだから」
ババア猩々緋 「はぇ?」
ババア浅葱 「先の事は、後になってみなけりゃわからないだろ?」
ババア鶯 「それじゃあたしも唱えて置こうか」
ババア猩々緋 「それもそうだ。膝だって良くならないでもないかも知れない」
ババア浅葱 「そうよ。唱えたからって誰が損するわけじゃなし。さ、お茶が入りましたよ」
ババア鶯 「月々に、月見る月は多かれど、月見ぬ月はこの月の月。月々に……」
ババア猩々緋 「月々に、夜ごと月は尽きるとも、尽きれば次の憑き物なるぞと。月々に……。アー南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏」
ババア鶯 「あら嫌だ。指令が入ったようだよ」
ババア浅葱 「またかい?」
ババア猩々緋 「ああ、お茶が入ったかい。おや、おいしそうだ」
ババア鶯 「どれどれ……。ああ、最近はどうも字が霞んでねえ!」
ババア浅葱 「ブルーベリー・エキスがいいんだよ、霞み目には。どれ、わたしが読もう。ちょっと、そこの眼鏡取っておくれ」
ババア鶯 「すみませんねえ、いつも」
ババア浅葱 「えぇ……、ジャスコ品川西大井店に急行せよだってさ。窃盗だよ」
ババア猩々緋(咀嚼中) 「ムガガガ。ムゴゴゴガガガヒハハヒガムハムンマハハ」 
ババア浅葱(咀嚼開始) 「するとあれハヒハヘ。アヒハヘエ、マッハリモヘヘハヘ」




Chapter3 : 〜殉職〜 さらばオッサン刑事

(指令ファイル ?205 埼京線車内に於いて埼玉県警鉄道警察隊に捜査協力せよ)

ババア藤紫 「だからアタシが何したってんですよ」
鼻曲署(在板橋区)生活安全課・藤堂課長 「君ね、何度も言うけどさ。被疑者に危害を加えたのは周りの捜査員が見ているのだよ。乗客にも見られたかもしれない」
ババア藤紫 「だから何もしてませんて。アイツが勝手に伸びちまっただけでさ。偶然ですよ。いえ、不測のアクシデントてえんですか」
藤堂課長 「とにかくね、マスコミに嗅ぎつけられるとまずい。まずいんだよこれは」
ババア藤紫 「嗅げるもんなら嗅いでみなよ、とアタシは言いたいですけども」
ババア銀鼠 「そうですよ、あの男が勝手に嗅いだんじゃないですか。藤紫さんはちっとも悪くありませんよ」
ババア茄子紺 「どうせ痴漢するような男だろ。そんな奴は死んじまった方が世のため、人のためだ」
藤堂課長 「君達は黙っていなさい。さっきからうるさいよ。とにかくだね、君は職務上の重大な規則違反を犯したのだ。これは特別公務員法で禁じられている。直属上司である私も当然、責任は取らなければならない」
ババア銀鼠(ババア茄子紺に耳打ち) 「責任だとさ。そりゃてめえは戒告か減給で済むんだろうよ。ねえ?」
ババア茄子紺(聞こえよがしに呟き) 「男ってのはさ、表向きもっともらしいゴタク並べても、実は我が身が可愛いだけなんだよねえ!」
藤堂課長 「おい、君達」 
ババア藤紫 「だからわざとじゃないって申してるでしょう、さっきから。抑え込んだ時にたまたまアイツの顔が……ねえ? 大体あんなに暴れさえしなけりゃね、アタシだってああいう体勢は取らずに済んだんですよ」
藤堂課長 「だから他の捜査員がその時、君が右手をスカートの中に入れたのを見ている」
ババア藤紫 「おいどが痒かったんですよ。それでつい、反射的に。アクリルですよ? 年取るとチクチクするんですよ、化繊は。見せたわけじゃありませんよ」
藤堂課長 「とにかくそれで彼は死んだ。わざとじゃないにしても、君の軽率な行為によって尊い人命が奪われた事実は、言い逃れ様がないのだからね」
ババア茄子紺(ババア銀鼠に耳打ち) 「尊い! だとさ」
ババア銀鼠 「ふん!」
ババア茄子紺(ババア銀鼠に何やら耳打ち) 「……」
ババア銀鼠(頷く) 「ふむ、ふむ…」
藤堂課長 「とにかくだ。聴取が済んで処分が下るまで、君には車両部の充電器で謹慎してもらう。わかったね? ゴリさん、頼むよ」
ゴリさん 「はい」
ババア藤紫 「そんなぁ。困りますよ急に。うちのチロちゃん(シマリス)の面倒、誰が看るって言うんだい」
ババア銀鼠 「心配いらないよ、チロちゃんはわたしに任せな。非番の人達にも声かけるからね!」
ババア藤紫(ゴリさんに生活安全課から連れ出される) 「すみません、すみませんねえ。恩に着るよ……」

藤堂課長 「さ、君達は職務に戻りたまえ」
ババア銀鼠 「課長。実はおとついの集団暴走一斉検挙で単車さばいた時に、ちょいとやってしまったらしくて。どうも肘の具合が」
藤堂課長 「そりゃ大ごとだ。シフトを交代するかね?」
ババア銀鼠 「いえいえ、そこまでは。ただ、何せ1100がありましたでしょ? 思い返してみると、あれをぶん投げた時にね、違和感があったような。ちょいと油でも点してもらえると助かります」
藤堂課長 「そうかね? ヤマさん、メンテの連中まだいるかな」
ヤマさん(日報記入の手を止めて) 「あ、いや…。6時を回っていますからね。いやしかし、本庁ならば、まだ…」
ババア銀鼠 「チョチョッと点すだけですからね、素人でもできますよ。いえ、お嫌ならわたくしが自分でやりますし」
藤堂課長 「それじゃヤマさん、連れて行って錠を開けてやりなさい」
ヤマさん 「あー。はい」
ババア銀鼠(ヤマさんに生活安全課から連れ出される) 「すみませんねぇ、お忙しいところどうも。アレですかしらね、やっぱり浅丘雪路の離婚は、津川さんの浮気ですかしら?」

ババア茄子紺 「課長。勝手な先入観で死んだのに、それをあたしらのせいにされるのは腑に落ちませんよ。はばかりながらね、若い女のと見た目大して変わりゃしないんだから実際。偏見もいいとこだ」
藤堂課長 「そうだとしてもね、君らは準公務員なのだ。まして市民の安全を守る司法捜査員だ。我々は率先して法律を遵守しなけりゃならんのだよ」

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(指令ファイルNo.なし 京浜東北線南浦和駅東口から円正寺へ徒歩)

ババア銀鼠 「だけどいい男だったよねぇ……」
ババア茄子紺 「えぇ? あんな下ぶくれがかい? えぇっ?」
ババア藤紫 「ヤマさんだろう? 渋くてさ、冴えないようでなかなか男前だったもの」
ババア茄子紺 「まあね。男なんて大同小異だけど、お喋りよりは無口の方がマシだわね。偉そうに減らず口叩かれると、本当に腹立つわ」
ババア銀鼠 「もう1年も経つんだねえ!」
ババア藤紫 「早いねえ。人なんて儚いもんだよ」
ババア銀鼠 「全くねえ! うちの主人なんて、来年は13回忌だもの」
ババア藤紫 「あらいいじゃないの、遺族年金12年も貰ってさ。ウチの宿六なんざ働いたり働かなかったりだったろ? さんざ苦労かけた上に、まぁ長患いしやがってさ」
ババア銀鼠 「だけど何たって孫が多いでしょ、わたしのとこは。入学やら卒業やらで右から左よ」
ババア藤紫 「ああ、孫ね。孫からは返って来ないよねえ、びた一文」
ババア銀鼠 「本当ですよ。まあ、いくつになっても可愛いから仕方ないけどさ」
ババア茄子紺 「あのさ。つかぬこと伺うけど。いくら包んだ?」
ババア銀鼠 「わたしは3千円」
ババア藤紫 「アタシは5千円」
ババア銀鼠 「えぇ? そんなにかい?」
ババア藤紫 「多いかね」
ババア銀鼠 「そりゃあんた、年下と言っても上司だもの。目下からはそんなに包まなくていいんだよ」
ババア藤紫 「そんなもんかい? ここいらじゃ。じゃあ、3千円にして置こうか」
ババア茄子紺 「馬鹿にならないよねぇ、冠婚葬祭は。あたしなんか結婚もしないのに三十路過ぎまでさんざ御祝儀ふんだくられてさ。年取ってみれば、今度は香典責めだよ。こちとら健康体ってだけで、理不尽じゃないかい?」
ババア銀鼠 「まあ、これも浮世の義理だからね。天下の回り物と同じで、仕方がないよ」
ババア茄子紺 「だけどボーナスも退職金も出ないご身分だろ? いっぺんに3人分は、ちょっと痛いよ」
ババア藤紫 「まあ、ね。それだって言えた義理じゃないけどもさ」
ババア銀鼠 「しっ。壁に耳あり、だよ」
ババア藤紫 「あら! そうだった。…うふふ」
ババア茄子紺 「それで、どうだろうね。一同からって事にすりゃ、ひとりあたま1枚で済むよ?」
ババア銀鼠 「おや、考えたね!」  
ババア藤紫 「お待ちよ。だったらいっそ金茶さんや鶯さん達にも声かけてさ、隊員一同からって事にすれば、1枚どころかワンコインで済むよ?」
ババア茄子紺 「そうしよう、そうしよう!」
ババア藤紫 「何と言っても、レインボウ・レデースは7人で1隊なんだからね」
ババア茄子紺 「ねえ、そしたらさ、お釣りで帰りにバイキング行こうよ」
ババア銀鼠 「あんたは若くていいわね。わたしなんかこの通り食が細いから、食べ放題なんていうと損しちまう」
ババア茄子紺 「じゃあ、東十条で降りて甘味処にしようか。あそこのあんみつはなかなかだよ?」
ババア銀鼠 「おや、いいねえ! 唾が湧いて来た」
ババア藤紫 「だけどあれだね。葬式は仕方ないけどもさ、夏場の法事は何とかしてもらえないかね。この炎天下に喪服はつらいよ」
ババア銀鼠 「あら。黒もなかなかお似合いだよ、あんた。別嬪ほど喪服が映えると言うだろう? まだまだ隅に置けないねぇ!」
ババア藤紫 「それだってさ。化繊は汗吸わないんだもの、化繊は」
ババア銀鼠 「おやあんた、まだ汗かくのかい。現役だねぇ、ますます。えぇ?」

                        
                             〜 完 〜 




 注・ この物語は『バイオニック・ジェミー』と『ゴレンジャー』並びに『太陽にほえろ』から想を得たものであり、『ミニスカ・ポリス』や『チャーリーズ・エンジェルス』ではありません


散文(批評随筆小説等) 秋の近未来アクリル超大作 ; Sigh-Vogue戦隊レインボウ・レディーズ出動せよ Copyright salco 2010-09-16 21:49:01
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