水際のひと
恋月 ぴの
手さえ握られたことないのに
あれは高校二年生の今頃だったか
「あの子ってやりまんらしいよ」
そんなあらぬ噂を言いふらされたことがある
誰かしら噂になっているなと感づいていたけど
まさか私のことだとは思わなかった
火の無いところに煙は立たぬとは言うものの
今どきの女子高生みたいにスカートの丈いじったり
髪の毛染めたりしてた訳じゃない
今までのような曖昧さは許されない
そんな強迫観念じみた空気に支配されてた時期だったしね
私のこと多少なりとも快く思っていないひとがいて
何かの拍子にそんな虚言を口にして
言葉自体に罪はないにしても
勝手に一人歩きしていく言葉ってなんだかとても恐ろしい
「イジメ」にあっているとは思わなかったけど
進路指導が頻繁になった頃には耳にしなくなった
人の噂も七十五日ってことだったのかな
秋ってどこへ行ってしまったのだろうか
この頃自傷するような感覚に陥ることがある
それでも弱音なんか吐かないし
誰彼となくお愛想振りまくような真似だけはしたくない
部活で怪我した私の登下校に付き添ってくれた友だちがいた
決して恩着せがましくなかったし
彼女の親切を素直に受け入れられる私がいた
あの頃に戻りようは無いのだけど
失ってしまったものをほんの僅かでも取り戻せるならと
季節を綴る絵葉書に感謝の気持ち添えてみた