スクラップブック
結城 希

しかめ面の空の下
排気ガスが充満する都市の片隅を
少年時代の自分が駆けて行く
らく書きだらけのノートを
大事そうに抱えて

裏通りの路地を縫って
山道を抜ければ
大人たちの知らない
楽園がある

ガラクタの中に 君と築いた
二人だけの秘密基地

僕は壊れた冷蔵庫に腰かけて
意味も知らず
形にならない夢を描いた

君と二人でノートを広げて
めくって のぞいて
笑い合ったね

最後の日
落としたノートが
ばらばらに散って 風に舞った

君はまた、見知らぬ土地へ旅立ってゆく。

僕は夢から醒めたように
ゴミの山を後にする

ばらばらに散った紙片に雨が降り
秘密基地は 次々と積み重なるゴミに埋もれた

排気ガスの充満した都市には
少年時代の自分は もういなかった
代わりに落とされたノートには
形にならない夢が なぐり書きされていた

僕はノートを抱えて
もう一度
あの日の裏通りを駆けて行く

なくしたものを探すため
ゴミだらけのあの場所に帰ろう
ずっと昔 そう約束したから

山道を抜けて
ガラクタに腰掛けて
君の手を取って 笑って


自由詩 スクラップブック Copyright 結城 希 2010-09-13 00:44:50
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