駅でモノクロが笑う
Akari Chika
駅でモノクロが笑う
見逃してしまいそうな一瞬の隙に
夕暮れに口紅を塗りたくる
張り詰めた不安を化粧で隠して
私は女
悲しいくらい弱くて
切ない
切ない
と
ただ馬鹿みたいに繰り返したくなる
金木犀の粉で香り袋を作って
アジアの片隅で口づけていたい
青いTシャツの鮮やかな切れ端
腕に残る古い傷痕
私の好きな人の最後の記憶
衣を脱ぎ始めた木が
抱きしめてくれる人を探してる
きっと自然も
脳と心と身体で出来てる
街はいつまでも 洪水と喧騒
包丁を持つのも怖ろしかった頃
だけど
研ぎ澄まされた純粋さで
人も斬れそうだった頃
私は大人
利口な人を何人も見てきた
自分の欲求に従える
器用な人に
憧れる
輝きたい
輝きたい
と
ただ馬鹿みたく繰り返している間に
夢も美しさも散っていく
駅で笑ったモノクロが
家路を辿る人の背に宿る
私はカメラを構え
その人の心に潜む白と黒に向けて
強く強く シャッターを切る