直線 9/11
夏嶋 真子

*


ビブラートに揺らぐ空の裂け目を
幻視の鳥が飛ぶ


*


明滅をくりかえすビル群が剥がれ落ちる
 ((NYという記号を描くその一点として わたしが燃やされる))
国籍は液体でできたわたしのからだを凝固させ
異なるものを許さないと歌をうたう
模造紙の上にレプリカの町並みを再現し 
神様の視点をまねる者たちをのせて
幻視の鳥は飛ぶ


*


Hello
アメリカという名の人間がどこにいますか
"Kill Them."
今朝、挨拶をかわした隣人はアメリカとして焼かれる


*


鳥が飛ぶ
あれは鷹
南向きの子ども部屋には
聖なる青い山が連なり
ナバホのこどもたちが
うたい、おどる
その
太陽をふるわす力で
種をまく
花は咲いて
性交の夜にふるえる
女たちの幾億の排卵が
今空にあって
月光に濡れる

鳥が飛ぶ
鳥は飛ぶ


*


幻視の鳥が飛ぶ

なぜ マンハッタンの海岸線は
なぜ 双子の建物は
なぜ その冷たい窓は
なぜ 目前の書棚は
なぜ この本は
なぜ 今、目にしている文字列は



直線なのだろう


うずくまるこの体は
直線に囲まれ
人間を強いられている

老いて節くれだった手が
不規則な稜線を描いて
魂を掴もうとするのに
決して撓むことのない直線の前で
私は身を隠せずに
国籍の刻印された
十字架に掛けられている


*


海を空を風を断絶する
直立の直線が
文明の存在を
高らかに宣言する
踏みつける者たちと
踏みにじられる者たちは
互いの顔を知らない


*


幻視の鳥が飛ぶ
((さようなら、みなさん))
今やその時だ
幾億の光線に貫かれた
この亡骸を
鳥よ
鳥よ
魂の曲線に沿わせ
空へと抱いておくれ


うねるような風の音


*


幻視の鳥が飛ぶ
レクイエムが聴こえる
わたしは炎の翼で
上空へと舞い上がる
散り散りのわたしが火の粉になって降り
直線で囲まれた地図帳を
怒りのままに燃やそうとする


*


鳥が鳴く
鳥は鳴く


*


鳥が飛ぶ
なだらかな稜線
炎の中で
鳥の目は澄んでいる
こどもたちが
うたい、おどる 

レクイエムが聴こえる
レクイエムは聴こえる




自由詩 直線 9/11 Copyright 夏嶋 真子 2010-09-11 20:30:37
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