ふあんな街は犀の背中にのっている
石川敬大




 オタマジャクシが
 ぼくのまぶたの裏側に棲みついてしまった
 けれど、だれからもみえない
 ぼくにも
 影の輪郭しかみえないが
 たしかに棲みついて動きまわっている

     *

 あまりの暑さに逃げ込んだ
 ショッピング・モールの四階駐車場からでもみあげるほどに高い
 ツインの高層マンションが
 この街のシンボルだとして
 この街はオタマジャクシではない
 オタマジャクシは
 この街をプランニングした
 デザイナーの頭のなかにいたはずだ
 どこからかあらわれて頭のなかをしきりに蠢き
 やっと静かになったカタチが
 この街なのだ

 この街はいっけん堅労である
 獰猛な自然からコンクリート人工物で護られている
 樹木や雲みたくにはうろつきまわらない
 夏の暑さにもどこへも逃げていかなかったほどには忍耐力もある
 でも
 ときどきの
 グァラングァラン
 小刻みなユッサユッサの
 この大地の脈動はどうしたことだろう

     *

 ぼくは妄そうする
 絵画のなかで静止したオタマジャクシが
 ふたたび蠢きはじめたのだと
 プランニングしたデザイナーはもういないけれど
 オタマジャクシは街の地下にいて蛙になる日をまっている
 あるいは
 鎧におおわれた
 この街を背にのせた犀を追いたてていると






自由詩 ふあんな街は犀の背中にのっている Copyright 石川敬大 2010-09-11 10:49:21
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