Go On
寒雪
突然着メロを歌った携帯電話が
静寂の中伝えたのは
友人の死だった
半年間
人工呼吸器に括られた彼は
むしろよく生きた方だと
母親の声が途切れ途切れに
電波状態のせいではないことが
無念さを駆り立てる
告別式の日は小春日和
お棺の中
小さくなった彼は
騒がしすぎるほど静寂で
悪寒を感じるほど雄弁で
彼の面影を死化粧が上書きし
一個の「物」に変質させる
献花を彼の心臓に置く
いつか海外で絵の勉強をしたい
嬉しそうに語った彼
今頃イタリアの空で
海をキャンバスに絵を描いている
夢が叶うといい
見上げた空には彼そっくりの雲
十代の頃
自分の存在が絵空事に思えて
目が覚めた時
ベッドの上最初に脳裏に映し出されたのは
指の筆で書き殴った白色の天井
湿っぽい蛍光灯の
頼りなげな光に包まれ
泣きじゃくる母親の嗚咽が
目の奥に焼きつく
葬儀場の開いた窓から
しめやかな読経を耳にすると
左手首の傷跡が疼く
先ほどまで
彼だった雲はいなくなって
そこに白猫が座っていた
身震いに僕は思わず
左手首の傷にキスをした