緑の蝶
石瀬琳々
渇く忘れ去られた庭に光があった
錆びついた鉄柵はきしみを告げる
ほしいままにはびこる夏草が
風を連れて通り過ぎてゆく
忘れ去られた庭の
土は乾いて陽盛りだけが
影を作り 思い出を形作り
かつてあったものを浮かび上がらせる
あかつきの星 ゆうぐれの星
は どこに
やさしい面影はどこに
手のひらを重ね合った人は
あかつきの星 ゆうぐれの星を探し
僕は一人荒れ庭をさまよう
今は盲目だけが時のよすがになり
この風の過ぎ行きに消えてゆくのか
差しのべる指の隙間を
飛び立つものは一頭の蝶
何ごともなく ただの偶然に
蝶よ
僕の心は遠すぎる
蝶よ
指先をかすめていった
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緑の詩集