日向のころ
豊島ケイトウ

あなたはとても照れくさそうに笑うそれを見るとわたしは無性にいとおしい気持にあふれる

(わたしたちの愛に余裕はないのだから)

偶然だねとかいっしょだねとか聞くとどうもその手には弱いみたいあなたのようにはなりたくないわ、と尊敬を込めて告げてみる
あなたはもういなくて影だけが淋しそうに落ちているわたしはその場に泣き崩れたくなる

(わたしたちの愛は、だから今すぐにでも抱かれたいほど傷んでいる)

あなたにはいつまでも白く生きてほしかった
わたしが呼べばどこにいようが駆けつけてくれるだろうわたしが泣けばずっとそばで髪を撫でていてくれるだろうでもそんなことはできないだってわたしの存在だけであなたを苦しめていることを知っているから

(あなたの肌に爪をたてたのは純粋な意地悪だった)

そうしてあなたがいなくなってからというものわたしは首から下を切断してしまったような気分だった
どこにいてもわたしはあなたに触れることを赦されずまた満たされない

(どうして早く判ってしまわなかったの?)

見えない触角をいくつもからませる――その間だけ時がとまっているように思ったけれど気がつくといつも「……」が恨めしかった

(もう手遅れだっていつごろ知った?)

どんなときでもおまえはいい子だともっともらしい声で褒めてくれた
今いちばんほしいものはあなたと会える鐘の鳴る朝――そう、わたしは朝を求めていた

(静寂の気配……)

     *

まず指先から剥がれてゆけば二人ともだいじょうぶ、近いうちにちゃんとしたかたちで別れられるでしょう――わたしは云う
なぜこうもヒトはヒトに近づきたがるのだろう――あなたは云う
たとえば自分の心が欠けていたとするとどうしてもその穴を埋めたくなる――わたしは云う
でもその穴に合うかたちを所有しているヒトはごくわずかだ――あなたは云う
それでもわたしたちは恋というかたちだったり、あるいは師弟というかたちだったり、いろいろと惹かれ合うのだと思う――わたしは云う
師弟?――と、あなたは笑った


自由詩 日向のころ Copyright 豊島ケイトウ 2010-09-08 09:59:28
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