密林からの
月乃助

人の声がしていた
気のせいかもしれない
聞かなければ、
聞かずにすむのかもしれない

鬱蒼とした密林の獣道らしかった
薄日の差し込むそこは、鳥が時折 過ぎていく
朝ならばもう、あたしは学校へ行く時間だった
自分に課せられた約束をやぶっては、生きていけない
そう思いながら
一人多湿の森の中を
汗をかきながら歩いていた

誰も足を踏み入れたことのないそこに
人を導く道があるのがおかしくて
否定しようとしてもそれができずに、
受け入れるしかないようだった

叫びたい衝動があるのに、
そうしたら すべてが消え去ってしまうのが恐くて
ただ生茂る影の木々を見つめて黙っていた

しばらくすると
はてしなく続いていた暗い森を抜けた
木の間には、葉を葺いた壁のない家があって
村と呼ぶには小さすぎるそこに、人の営みがあった

アダルト・サイトで見るのとは違った 裸の
男の人たちがいてこちらの様子をうかがっていた
疲れきっていたあたしは、何か食べるものをと頼むと
みな集まって話していたが、しばらくすると
サルの手がでてきた

少しのあいだ
茹で上がったそれが、食べ物であることに気づかずに
他のものたちがもう一方の手を食べ始めてやっと
その意味が分かった気がした

この世には、サルを食するものたちもいるのだ

皮が硬そうだけれど、
それにかぶりつけばよい
いつものように決意はゆらぎ 途方にくれてしまう
食べれば血にも肉にもなるはず なのに

あなたは、鯨を食べたことがあるのでしょ?
イルカは?
ラッコはどう?

うちにやってきた女が、そう聞いていたのを
思い出した

それっていったいどんな味なの?







自由詩 密林からの Copyright 月乃助 2010-09-08 06:19:10
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