帰れない
森の猫
久しぶりに実家へ行った
1年ぶりのことだ
改装したとは聞いていた
ただいま
真新しい 木目の引き戸を開け
急な階段をずんずんと
上がっていった
あれ?
あたしの部屋であるはずのところに
受験生と思われる
小学生があふれている
それに
Kだ!
あたしに 中高と嫌味を言い続けた
同級生
あたしと同じ名前が嫌だと
ことあるごとに
口汚く罵った K!
Kが先生をやっている
学習塾なんだ
おかあさん、
ちょっと どうなっているのよ!!
あぁ 話すきっかけがなくってね
まぁ お茶でも入れるから・・・
まるで言葉とは裏腹で
すまなそうな素振りはない
あたしは 途中で買ってきた
田辺聖子の分厚い全集を
ふとんに寝転がって
読みたかったのに
いい じゃここに
ふとんを敷いてもいい?
すると 仕事から戻った
出戻りの兄が
嫌だよ ヨコちゃんの
となりで 寝たくねぇな
もうっ!
あたし 帰る!
あたしの居場所はこの家に
ないことを悟った
玄関であわてて
母のちいさめのミュールを
ひっかけて
駅までのまっすぐな道を
走った
彼にメールした
エラーメール エラーメール エラーメール!!
返ってくるのは エラーメールばかり・・・
駅前に新しく出来た
ファミレスの灯りが見えた
あそこで生中飲んでかなきゃ
気がおさまらない
あぁ 今夜はどうしよう
泊まるつもりで家を出たのに
帰れない
帰りたくない
あたしは行きつけの
ビジネス・ホテルに
コールした