—縫い合わされるもの—
N.K.

娘が幼稚園に入るまでに
通園バッグを縫わなければならなくなった 我が家では
まず 寸法を測って キルト地などを裁っては

思わされる 間違って絶ってはいけないと。日本語があまり
得意ではない妻が 大変お世話になった
ミシン教室の先生との人間関係は

続いて かがり縫いに移る。私も見守りながら
周囲から布がほつれていかないようにと。

「ほつれていかないように」と 願わされるものは
お世話になった人たちへの感謝とか
これから会う人たちへ広がって行く期待の伸びやかさ

それから縫い合わせる。布の端と端とを 生地を裏返して
肩にかけるベルトなども 時折 私たちは思い返して

日頃は連絡することの少なくなった 田舎の父は
この前突然 日を選んで雛人形を送ってくれた。

そう 私たちではなく この娘が縫い合わせてくれるのだ。
妻の母国と私たちの今住むこの国とか
田舎の父の気持ちと 離れて久しい息子の気持ちとか

仕上げに ふたの部分にマジックテープを縫いつけて
ゴムをゆるく通したら それで通園バッグの出来上り。

繕われた距離と記憶の断片といっしょに―
飛び立つ瞬間を静かに待つ希望の断片が―
―縫い合わされて―
通園バッグの形で精いっぱい膨らんでいる。

通園バッグを持って出かけていく子に
―縫い合わされて―
様々な彩りの 世代や言語の パッチワークのような 
小さな祈りが そこから織りなされ始める。



初出 詩と思想9月号


自由詩 —縫い合わされるもの— Copyright N.K. 2010-09-07 21:16:21
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