Sacrifice ★
atsuchan69

 ――知っていただろうが、

銀のフォークに刺したその柔らかな一切れが
まだ焼かれるまえには紅く鮮血が滴っていたのを
そして屠られるまえに荒く息をし、
「お願い、どうかやめて!」と叫んだのを

 ――知っているだろうが、

あなた自身がけして善人でないことを
悲しみのひとに席を譲ることよりも
奪うことによってしか私たちが生きられないのを、
その笑顔には、蔑みを隠していることを

 ――知っているだろうが、

今日までいくども見殺しをくりかえしてきた
TVや新聞で他人ごとの殺戮が五月蝿く報道され
あなたは疲れていたり忙しすぎるのを理由に
ただ、自分のために楽しい時間を作ろうとする、

 ――You know what I'm saying?

やがて酷く寒い冬が来てキリギリスは死んだ。
いつしか無秩序な生活破綻者たちの暴動を封じるために
ジェノサイドを目的とした収容所があちこちに出来、
彼らは骸を埋めるために深い穴を掘りつづける

 ――知っているだろうか?

遺伝学的に正しい者たちを残すために
新しい人々は人類の歴史さえも書きかえてしまった、
楽園の外にはまだ傷ついた人も残されていたが
輝ける未来に、もはや哀しみなどなかった

 ――知っていただろ、

銀のフォークに刺したその柔らかな一切れが
まだ焼かれるまえには紅く鮮血が滴っていたのを
そして屠られるまえに荒く息をし、
「お願い、どうかやめて!」と叫んだのを


自由詩 Sacrifice ★ Copyright atsuchan69 2010-09-07 14:51:21
notebook Home 戻る