鏡に独り言
……とある蛙

他人の死は見ることができ、
自分の死は見ることができない。

他人の表情は見ることができ、
自分の表情は見ることができない。

自分の何かはすべて想像だけで、
鏡に写った自分が本当に自分である保証は無い。

自分の体は自分で動かせる?
いや 自分の体は自分の思いどおりに動いたためしがない
自分の体ですら体である保証はどこにも無い。

ある日ふと立ち止まる
歩いている自分の足は
本当に自分の足である保証は無い。

鏡に鬱った顔が自分の顔と同じである保証はどこにも無い。
見ている時点で左右逆ではないか
すべての物が左右逆か
その保証などどこにも無い。
理論的説明?
光が直進している保証はない。

斜めに覗き込むと
いや、覗き込まなくても
鏡は上下をそのまま写している。
鏡は必ずしもすべて逆に写す訳ではない。
真実 斜めはどう写っているのか
左右逆に写っていることを自覚していても
真実を写していると認識している根拠はない。

自分の目に映る物と鏡の像はすべて違う。
鏡の像と実物は違うのだ。
自分も実像も随分違うのだ。

そして 声なぞは なおのこと自分の声か
自分の声である保証なぞ無い。
すべて霞みを掴むようなものだ。

文章なぞに本当のことは書けない。
本当のことは分からない
まがい物だ。
事実に対して不真面目な記号の固まりだ。

すべてそこから始まる。


自由詩 鏡に独り言 Copyright ……とある蛙 2010-09-07 12:01:42
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