焼島  
楽恵

              

真夜中に揺り起こされた
見知らぬ男が側にいた
男は声を潜めて、島を焼く、と短く言った
これから島を焼くのだという
どこへでも好きなところへ逃げろ、そう呟いて男はどこかに去った
中年くらいの、男の顔はよく見えなかった
窓の外が異様に明るい
すぐさま飛び起きて家の外に出る
隣の集落が炎を上げ燃え盛っていた
辺りいちめん焦げ臭い匂いに満ちて
こちらの集落まで火の粉が飛んできていた
小さな島である
火はすぐに島中を飲み込むだろう
近くで何かが爆発した
本気で島を焼くつもりなのだ
あの男がやったのだ、と悟る
赤ん坊の泣き声、皆何か叫びながら逃げ惑う
騒いでお互いの無事を呼び合っている
持つものも持たず、とりあえず港の方に逃げる事にした
迫り来る火から必死で逃げる
小さな島である
ただ、こんな日がいつか島にやってくること
予感していた
島は昔から時々焼けることがあるようだった
近いうちの焼島を予言した霊能者も多くいた
港に着くと人々が押し合うように漁船に飛び乗っていた
混雑を避けながら空いている船を見つけ、乗りこむと本能のまま全力で櫂を漕ぐ
小さな島である
火が島を焼き尽くすまで1時間もかからなかった
船に乗り島を離れた人々は
海上から夜空を焦がして
島が焼ける様子をただ黙って眺めていた


自由詩 焼島   Copyright 楽恵 2010-09-07 11:37:35
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