犬もみていた、夏のおわりを
石川敬大





夏がころがりおちてゆくのを
陸橋のうえから
ぼくは
ずっとみていたんだ
いつかかならずくる
嵐が
ニンジン畑のどこに潜んでいるのか
だれも知らないことが残念でならないかのように

警察署の横を通りすぎるとき
意味もなくドキドキする
きみに
もし翼があるのなら
このぼくにもあるのだろうか
もし
きみが
拘禁される罪人であるのならば
ぼくもまたそうなのだろうか

  きのう
  ツレテイッテ
  と、おんなは涙目でうったえたのだ
  ぼくが
  どこに行こうとしているのか
  知りもしないくせに

二度ともどらない
この夏
を、惜しむ

ひとでなしの
昆虫の顔をした夏が
干からびてころがりおちてゆくのを
ローカル線の駅のプラットホームをみおろす
陸橋のうえで
ぼくは
ずっとみていた
しずみゆく夕陽の夏を
なごり惜し気な犬の背中でみていたんだ






自由詩 犬もみていた、夏のおわりを Copyright 石川敬大 2010-09-06 11:36:29
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