八つ当たり
新守山ダダマ

誰かを殴る代わりに
傘を折ってしまった
ガードレールに思いきり叩きつけたら
傘は死んでしまった
俺はこの傘の亡骸を写メに撮った
この傘の亡骸を一生忘れてはいけないと思った

俺は誰を殴りたかったのだろう?
誰でもない それは自分の中の積もり積もった感情
すなわち自分自身だ
人を殺すことは自分を殺すことだという
恨みを晴らすということは自分の心の一部を削り取ることだ
自分の心の現実を都合よく編集することだ
そして八つ当たりは極めて悪質な心の編集だ
俺は無関係な傘の命を奪ってしまった

卑劣な犯行を忘れるな
卑劣な自分自身を忘れるな
傘を無駄にするな この傘の死を無駄にするな
この折れた傘を自分の理性にしろ 血にしろ 肉にしろ
生きるためにこの罪の記憶を使い続けろ
罪を背負うとはそういうことだ

雨に濡れても
雨は俺の涙に同化などしない
雨は安易な喩えを許さない
俺の感情はどこにも紛れ込めない
言葉にするしかない


自由詩 八つ当たり Copyright 新守山ダダマ 2010-09-06 02:30:45
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