過失も、贅沢なわたしたちのまえには
乾 加津也
やさしさを捨てる課題に明け暮れていた
あなたは拾ってとどけてくれた
誰にもはちあわない海底トンネルを失踪する野ねずみの惑乱、分岐点を走りぬけ迷宮のままどこかのダムが決壊する速度を待っていた。汚泥に塗れ網を越え光をぬって朽ちはてた一枚の陰画(ネガ)に輪廻した、フラッシュの交信がとまるあれは夏の日の柑橘、裂けた若枝が触れてヒトの印だよとつけられた切傷、蝉の鉄橋と砂利に消えたペーソス。
“いま想いだしたのです、あなたに会えないときのことも”
些細な過失(あやまち)も
束ねて躍るミスティ・ブルーの可憐さにいとおしさを添えて
てのひらに抱くねずみの目 陵辱の囚人(ひと)のように
肩を落として踏みしだく あわれにはかない枯淡もやめて
わたしにも再び 身体を突き抜ける衝撃と漣に
ひとり を 映し
気もふれる夜に 叫ぶたびの朝に
ひとり の 息が
“いつまでもきかせて”
「ことば」ではない
あたりを包んで微(ほの)かに香る
あなたの軌道 冴えた「ひびき」に
祈りにも贅沢な明日から来る
もうひとつの「かけら」として