夏葬
萩野なつみ
扉などあってもなくてもよくて、
それはわたしの肺が
さくばん死んだ蛾の燐粉で
みたされるのとおなじこと。(こうこつ、
通り抜ける、みどりの、さけび
それは あした
砂丘につづく列車に
骨壷をだいてしずまる
みしらぬいのちとおなじこと。
(おまえが子宮の底で
描きちらかした空と海とは
行き場のないほどにあふれて。
飲み込まれる寸前にのばした腕に
からみつく蝉時雨。
生まれたいいっしんに
夏を呼び込み
おまえの鼓動はとまる。
投函された
真っ青な不在票と
わたしの内壁にみちる、原色の、
残照。 /いま
生まれるためには
なにも狂気がみえないうちに。
そうして鉄塔だらけの街で
たからかに
燦然と
掻き出される紅。
(夏、が
子午線をくだり
可能性のすべてを奪い去るまで
おまえの舌先にのこっていた、みどりの
陽光 /あかるい、ほう、へ、
わたしの体表にあますところなく
突き立てられるさけびに
みじろぐ必要はない
なぜなら、
ごととん、
揺れる揺れるわたしたちが揺れないことなど
あったろうか、骨壷にみちる
不在
たおやかな手つきで
つつみこむあれは誰(めしいて、いる、
窓に吹き付ける砂のむこう
誘蛾灯にちぎれる翅
うるむ しおさいの 輪。
(いつも
目ざめれば夏の、ただなかにいて
おまえののこしていった
ついに語られないものだけが
燃え立つような紅をたたえて
まひるのリネンにみちているのだ、
(あの鉄塔のふもとで
掻爬されたのはわたし
わたし?) //目ざめれば夏の、
ただなかにいて。