少し「珍」な音楽 水中、それは苦しい「ひと目見て憎め」「ひとりで生きる」篇
竜門勇気


世の中に名盤と呼ばれるレコード、CDは沢山ある。どれくらい沢山あるかというと、一説に街中で白いイヤホンで音楽聴きながらガム食ってるやつらがこれからの人生で同種の見ず知らずの女に性交渉を前提とした出会いを求める回数、その和に匹敵すると言われている。
しかし、名盤ってやつはとかく耳ざわりが良すぎる。
QUEENやMR.BIG、De La Soulやbeasty boysも僕は大好きだけどもたまには、激しく突き抜けた音楽を聞きたい。こわばった脳みそを揺らすに収まらず不二家のネクター状になるまでシェイクする音楽を聞きたい。誤解を恐れずに言うと、変な音楽を聞きたいじゃないか。

というようなことで、ちょっとレビューみたいなのをしてみたいと思います。
僕はそれほどたくさんの音楽に触れているわけじゃないので不勉強な面もあります。
ですが、まあちょっとだけ読んでって下さい。

今回紹介するのは、「水中、それは苦しい」というトリオの「ひと目見て憎め」と「ひとりで生きる」です。
わりとメディアへの露出が多いので、知っている方も多いかも知れません。現在、銀杏boyz、峯田さん主催の青春妄℃学園と言うレーベルに所属して数枚音源を出してるそうです。僕は峯田さんが嫌いなので買っていませんが。
前出の二枚はOZ DISCからのリリースで、「ひと目見て憎め」はOZの2枚目になります。(一枚目はヒップゲロー、ただしこの二枚は同時発売だった)ブックレットの中にもOZDISC創始者で高円寺円盤のオーナーである田口さんの姿が見えます。
トリオの編成としては、ヴォーカル(ジョニー大倉克紀(当時:今はジョニー大蔵大臣))ギター(竹内直夫)ヴァイオリン(斎藤学)という若干変則的。


ひと目見て憎め

全体を通して非常に空気感と空間の鳴りが独特です。概ねが楽器隊は音楽室、ボーカルは耳元で聞こえる感じで、なおかつエフェクトの聞き方が実験的といえる位に大雑把。
楽器となじませるとか、違和感を抑えるとか、そういう現代っ子どものヤワな耳に特化した作りではありません。
ラインやスタンドマイクをMIXしたサウンドは手間をかけただけあって、聞けば聞くほど無駄にハイファイです。この解像度が逆にきわどい部分を浮き彫りにして大変聞きづらい一枚になっています。
しかし、歌詞の独創性は他者の追随を許さず、他者どころかまっとうに生きてる人々をも抜き去り「意味はさっぱりわからないうえにテーマが無駄にマニアックだが、変に心地良い」そんな不思議な感覚を与えてくれる。
脚韻部と頭韻部は脅迫観念に突き動かされるようにリンクする。引用する

ゆびしんいち
俺のしんいち
お母さんですよ
デストロイ


この後歌はトロイの木馬へ移りアスファルトの取り留めなさが提示され唐突に、終わる。全ての楽曲がこの調子だ。
だが、なぜかそんな失笑必至とも思える楽曲群が、二度三度と聞くごとに出所不明のカタルシスを与えてくれることに気づく。無意味な考察かも知れないし、ただの感情論であるかも知れないが、これはロックだな、と感じます。
一発どりでアドリブを過剰に入れまくるのは確かにプロ的ではないかも知れない。しかもただのダジャレにしか聞こえない(実際ただのダジャレなんだと思う)。それをスタジオで録音する。金だって掛かるし、多くの人の手と時間を借りて音源は作られる。
この極限状態で、「サンダーレイプ!デビルセックス・・・」と叫ぶ矛盾。唐突にこのCDを買った人全てが知っている収録曲名を羅列する無意味さ。しかしそれらがすべて心地良い。一貫して矛盾するのだ。無意味だが有意義なのだ。
僕は今までこんなに穏やかな気持で爆笑したことはない。

ひとりで生きる

ライブ音源が中心となったアルバムですが、なんといっても恐ろしいのは三上寛との共演です。ひらく夢などあるじゃなしの三上寛です。おっかさん、気が狂いそうだよ!の三上寛です。
小便だらけの湖という曲での掛け合いによるトラックは、世界でおきている色んな悲劇をお土産に小瓶に封じ込めたような悪夢のようなスカスカの名演です。
さすがに講演後「サビぐらいは作ったほうがいい」と非常にまっとうなアドヴァイスを受けた水中、それは苦しいでしたが、その音源が入っているこのCDの解説に自ら「何を言ってるのか解らなかった」「すべてがサビの曲を常に目指している」と発言しています。
確かにそれは理想ではあるし、出来ればそうしたい。メリハリなんて関係なく最初から最後の一音まで最高潮で突き通す。ただそれは理想であって大人ならそれが天賦の才を以てしても難しいことを知っています。
それを、三上寛に叩きつける。偉大なる孤高のフォークダメ人間に、水中、それは苦しいが。最高じゃないですか。
その他にも前身バンドの音源も入っていて、曲数の割に飽きさせない作り。前身バンドのボーカルは弘前で僧侶になったという(ブックレットより)。

また、軽トラックの上で演奏しながらバッドホールサーファーのライブ会場周辺をうろうろしているときの音源も必聴。
軽トラックと電柱に挟まれてしまった女性の「痛い!」という声とギャラリーの「挟まってる!」という声が本当におもいっきり入っていて、びっくりします。
もっとびっくりするのは、女性が挟まった瞬間が撮影されていて、なおかつその写真がこのアルバムのジャケット写真だということですが。

そんなこんなで、「珍」な味わいのある音源、水中、それは苦しいの紹介をしてみました。思ったより書くのに時間がかかって朝になってしまってびっくりしています。
こういう時はおかゆをつくって食べましょう。
しかし、わざわざ生米から作ると大変なので簡単な作り方を紹介します。

1、余った冷や飯を鍋に入れて煮ましょう。
        ↓
2、塩をかけたりして食べます。やけどをしないように気をつけよう。

おしまい


散文(批評随筆小説等) 少し「珍」な音楽 水中、それは苦しい「ひと目見て憎め」「ひとりで生きる」篇 Copyright 竜門勇気 2010-09-04 06:49:29
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