あんず飴
Akari Chika
風の弱い 祭りの日
千代紙で折った鶴を
そっと巾着に忍ばせた
少し早足で あなたと並ぶ
慣れない下駄に
つまずきながら
漆黒に
赤や青の屋台が
眩しくて
熱気に
真横の声すら
遠くなる
白く昇る
食べ物の蒸気に
はしゃぎながら
静かに 時を待っていた
手が触れ
肩が触れる
その瞬間を
あなたは
美味しそうにものを食べ
屈託なく笑い
幸せそうに
大輪の花を仰ぎ見ていた
だけど
私の心は
あんず飴のようで
熟れた果実に
絡まる
水飴が
甘美に
痺れ
溶けだして
痛々しい姿に変わる
夜に散る火花に
誰もが見とれ
歓声を上げる
だけど
私の心は
いつまでも
宴の後
売れ残った
あんず飴のように
置き去りにされたまま
ほろりと
溢れた
涙も
夏の湿気に
紛れて
消えた
太陽に似た色の魚
片手に下げて
お喋りの尽きぬ帰り道
惜しむ気持ちを
言い出せず
一つめの角で
「さようなら」
二つめの角で
「また明日」
手も触れず
肩も触れず
ただ
声だけが触れた
宴の後