夏が挽く歌
橘あまね
いっぴきの蝉が
務めを終えたように
仰向けに落ちて
空をひっかいている
親しんだ木々の幹に
戻る力はもう無い
おまえの瞳が
磨きたての宝玉のように
くろぐろと光をたたえるのが
泣いているせいだからと
決めつけるのは傲慢かしら
ぼくたちだって みんな
歌うための歯車にすぎない
かなしい歌を忘れるためにかなしい歌をうたって
誰に聞かせているのかもわからないまま
やがてどこかで うごくのを止めるときまで
歌いつづける
ちっぽけな つくりものでしかない
限りあることを 限りあると知らないままに
おまえの六本の足はやがて折りたたまれてしまう
歯車をひとつなくして
夏のきしむ音がきこえる