ひとりの物になる為に
鵜飼千代子

          ひとりの物になる為につくり込まれているわたしは
          その為に負う孤独には強くあるよう鍛えられている
          それはとても危険なことで
          守るべきものがその責を放棄したとき
          すべてが土煙をあげて崩れさる

          囲い込まれた内は温かでなければならず
          外気よりも凍える風はいらない脂肪ばかりを蓄える
          零下のタイルにお湯をかけても瞬時に凍り付くように
          自らの体温と引き換えに温めるのには限界がある
         
          誰だって本当は気持ちのいい場所が好きだから
          温かさはゆったりと残るけれど
          痛みは早急に出来事を封印し心の奥底を侵してゆく
          しらずしらずに新しい犠牲を求めて床をゆき
          さらに弱いものを追い詰める

          内の寒さは外の寒さより以上に身にしみて
          それを外に晒すことは内部告発として糾弾される
          ひかりの入らない蔵の中で飼い殺しにされるのは
          細かな事ばかりが目についてさらに神経を尖らせる

          さりとて
          わたしがわたしであることを亡くすことはできずに

          
          こうしてわたしは老いるのではなく
          保育器で命をつなぐ未熟児へと進んでゆく



          1997.12.30.  YIB01036 Tamami Moegi.      
          初出 NIFTY SERVE FPOEM


自由詩 ひとりの物になる為に Copyright 鵜飼千代子 2010-09-02 19:33:03
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