くちづけ
ベンジャミン

何かをこらえるときに
下くちびるを噛むせいで
わたしのくちびるはいつも痛んでいる

本当に痛んでいるのはきっと
こころというものであるはずなのに
わたしはわたしの痛んだくちびるの
その細胞があげる叫びを聞くこともできない

晩夏は静かに虫の音を奏でる

そんな夜でもわたしは
痛んだくちびるの痛みに思いをめぐらして
本当に痛んでいるこころをそうやって置きかえている

そうやってきたのだもの
ずっと ずっと そうやってきたのだもの
だからって簡単にこころというものの声だなんて
この晩夏の夜に鳴く虫の声のようには聞こえないんだから

ひどく冷たい氷水をつくりました

痛んだくちびるをあてて
透明なものにくちづけをする

そのとき少し驚いたところに在るのですか?
わたしにはまだわかりません

けれどひどく冷たくなったくちびるが
たしかに何かにくちづけするのを
わたしはそっと感じるのです
 


自由詩 くちづけ Copyright ベンジャミン 2010-09-02 00:57:16
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