チェルシーホテル
チャオ

みんなで映画を撮ろうという話になった

「パラノイドアンドロイド」を歌うカートコバーンか、
「リチウム」を歌うトムヨークがこの映画の主題歌。

「パラノイドアンドロイド」ならばブラットメルドーにピアノを弾かせ、
「リチウム」ならば、デビットキングにドラムをたたかせる。

ロバートジョンソンに憧れるギター青年は、
バランタインと間違えてカナディアンクラブを1ダース買ってきた。
「マイアイアンラング」を歌うベッシースミスは、コカコーラにするかペプシにするか迷っている。

主題歌をじゃんけんで決めることにしたカートとトムは、あいこが五回続いて苦笑いしている。
カナディアンクラブを見つけたジョニーデップとゲーリーオールドマンは、
ピカソが忘れていった皿で乾杯している。

サリンジャーがピナバウシュと打ち上げの場所で口論しているところを、ペドロコスタは、子供のようにそれを撮影して喜んでいる。
ベッシースミスがペプシに決めた頃、ブラットメルドーは、カートコバーンにじゃんけんの必勝法を教えた。

ゲーリーオールドマンが三杯目に手を伸ばしたとき、
ジャックニコルソンはジャックダニエルを差し入れに持ってきた。
なかなか進まない撮影に、暇をもてあましたショーンペンは、
フランクルが「大衆運動」を書き、ホッファーが「夜と霧」を描いたならば、
ニーチェは「種の起源」を書いたはずだという話を、エミリディキンスンにしている。

脚本を書き上げられないタランティーノは、クドカンに助けを求めている。
川端康成が、「シカゴ育ち」を読んでノーベル賞をとったと信じている女性が、
映画のオーディションはないかとたずねてきた。

「零度のエクチュール」をグランドゼロについての話と間違えていた宣教師は
カートが主題歌を勝ち取ることを予言した。
デビットキングは、その予言を聞いてがっかりしていたが、
結果的に、トムが主題歌を勝ち取り、ブラットメルドーが落ち込むことになった。

ジムジャームッシュは「ナイト・オン・ザ・プラネット」にリバーフェニックスを出したかったと打ち明けた。
エミールクリストリッツァはリバーフェニックスもジョニーデップも、いい男だと言った。
ジムは「ジョニーは使ってない」と言って、エミールは「僕は使った」と言った。

「バスキアとギャロがもう一度バンドを組んで、ビルボードを狙ったら、
バミューダトライアングルに飛び込んでやる」と宣言した女性は
ひそかにウィノライダーのファンだった。

小津安二郎は、オーディションとオーデコロンをかけてコントを作った。
パトリスルコントは日焼け止めを室内で塗っている。
甘党の日本人は、クリープを主題歌のお祝いに、トムへプレゼントをして笑いをとった。
その日本人はカートを慰めるために、「スメルズ」にかけてスルメをプレゼントした。
カートは「すごいにおいだ」と言った。

三年間部屋にこもって小説を書いていた青年が、膨大な原稿を持ってみんなの下へ降りてきたとき、ティルマンスのシャッターの音に驚いて、原稿をばら撒いた。
その光景は、点在する意味が空間にばら撒かれたようだった。

すべての原稿が落ちたとき、誰かが「お疲れ様!」と言った。
そのまま、みな、それぞれの車に乗り込み、打ち上げ会場に向かった。
そのときには、サリンジャーとピナバウシュは、すでに打ち上げ会場をみなに告げていた。


未詩・独白 チェルシーホテル Copyright チャオ 2004-10-18 00:54:39
notebook Home 戻る