遠吠え
高梁サトル


雲烟の中
銀河座標に沿ってゆく
冷たい蠍火
真夏の巡礼
迷うこころが重なってできた
道の途中で
重力だけ頼りに立っている
同じ足で
アクセルを踏む
ラジオから流れる
地球の裏側の音楽
それが誰の誕生歌なのか
まだ分からずにいる
此処から
高度一万六千フィートの上空へ
聞こえますか
あんなに煩かった蝉が
もう
か細い鈴虫のよう
けれど私は
ささめごとよりずっと響く
あの人の
遠吠えだけを聞いていたい
ならず者たちが
まあるくなって眠れる
やさしい場所を探して彷徨う
行進の傍ら
小高い丘の上で
ひとりぽっちで鳴いている
その声だけに
耳を澄ませていたい
(焦がれるだけ焦がれて
 焼け死んで
 産まれたての赤んぼと
 同じくらいの質量になって
 あなた
 早くうちへ帰りたいのでしょう?)
碧い星の上
群から外れた鳥
路傍に止めた車中から流れる
誰かの誕生を祝う歌
それだけで
理由もなく込み上げる
言葉にならない声を
高度一万六千フィートの上空へ
此処から


自由詩 遠吠え Copyright 高梁サトル 2010-08-31 20:46:45
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