桜の樹の下には
春日線香

桜の樹の下には雪が埋まっている
焼け残った桜の樹の下には
百年前の粉雪が
いよいよ冷たく固まっている
ほのかに白光を帯びて
樹の根とたわむれ
黄泉と混じり合い
はるかな夢にまどろんでいる
時には地上に浮き出たそれを
人がすわぶり食らうこともあるが
誰も自分が何を食べているのか
一向に気付いていない
なんとなればこれらの雪が
あまりに花の姿に似ているために
人は鬼のようになって
鬼は人のようになって
何ひとつ区別がつかなくなるのだ
溶け落ちた水は地に染み透り
冷やされてまた雪に戻る
結晶は静かに育ち
地上の樹は山火事のごとく
ものすごく燃えさかる
そのようであるからして
桜の樹の下には雪が埋まっている
あやしいほどの夕暮れに
たらたらと湧き出た血が
坂を汚すこともある


自由詩 桜の樹の下には Copyright 春日線香 2010-08-31 14:01:57
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