鳴かぬ蝉
伊織

わたしは弱い
飛ぶことに疲れた6日目の蝉のように弱い


アスファルトで蝉は微かに息をしている
罪の無い少年たちが地面に転がる蝉の腹を踏みつける
痛い
痛いので呻く
少年たちは面白がって更に圧を加える
痛い
ただでさえ黒い腹がちぎれそうだ

グリグリ、
ぐしゃっ。

身体はすっかりと潰れ腑から汁が滴る
途端に飽きてしまった少年たちは信号機を渡り立ち去った


気が付くと
まだ羽は原形をとどめていたその亡骸を完膚なきまでにヒールで踏みにじる私がいた
火のついたまま棄てられた煙草の如く

グリグリ、
グリグリ、
やがて感触も形も消え
地面にシミが転がる


わたしは弱い
傷だらけの自分自身を認めることができないほどに弱い


自由詩 鳴かぬ蝉 Copyright 伊織 2010-08-31 00:04:26
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