子どもの目の届かない冷暗所・夏
木屋 亞万
女という物体は生きている
水を入れたコップに落とされた
一滴のミルク
絡まった細い糸
水中を漂う霧
少しずつ溶けて
最後は白濁
男という物体は動いている
幹に絡み付こうとする蔓
絞め殺そうとしている
抱きしめようとしている
愛しているつもり
支えているつもりで
もう死んでいる
服を着替える気力もなく
汗に濡れた後の完全に乾ききった姿のまま
朝と変わらないベッドに倒れこむ
横たわると締め付けが増す
布の結合部
窓の外を駆け抜けたバイクは
絡まりを解こうとするように高速
冷蔵庫のファンが回る音がして
ハイヒールが地面に八つ当たりする音が響く
女という物体が
小さな女を生み出す様子を夢に見て
その生まれたての細胞では
二重螺旋が絡まりあう
男と女という物体
ねじれていく糸と蔓
本日も生命創造作戦は失敗
血が流されてしまいました
モザイクを取ってしまえば
何とも馬鹿らしい行為だから
衣服を脱いでしまえば
あまりに同様な構造だから
僕たちは必死で隠そうとする
隠したものが
まるで宝物であるかのように
探す想像する期待する求める
恋は本能ではない
夏の夜に降る雨と同じ
すぐに乾いて虹も見えない