見失う
北野つづみ

どこからか草刈り機の音が聞こえる
生ごみをコンポストに入れる
夕方の風は涼しくて
空には五本
爪で引っ掻いたあとがある
端っこの赤いところから
ゆっくりと解け、崩れていく
なにかもっと真剣に
語らなければならないことがあった
たとえばアスファルトのひび割れが
わたくしたちの希望であったことなど
壊れていくことを喜び
腐ることを美しいと思え
昨日までは永遠を信じていたこと

今日は射撃訓練の音がして
硝子窓は震え
青ざめた空は
戦闘機によってふたつに分けられる
天気が良いから
アブラムシのついた花に
殺虫剤を撒こう
蟻には毒餌を喰わせよう
そうしてふたつの空は
明日のほうから
ゆっくりと崩れ、解けていく
なにかもっと真剣に
考えなければならないことがあった
はずなのに
夏の日差しはどこまでも明るい
アスファルトには陽炎が立ち
焦点を見失う



自由詩 見失う Copyright 北野つづみ 2010-08-28 14:43:33
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