すこしむかしのこと
はちはちよん
長い、長いあいだ一緒にいた。
何回も泣いて、何十回も中華料理を一緒に食べた。
何百回もわがままを言い合って、同じくらい抱き合った。
水族館。
おんぼろの原付。
昼間のコインゲーム。
はなれた所の大きなデパート。
道のりの長い長い高速バス。
真夜中のトランプとコンビニ。
銘柄の決まってない煙草。
むりやりで、いい加減で、繊細で、呑気で、子供じみていたけど穏やかだった。
だらだらしたどうしようもない学生で、だけどわたしのことを真摯に、世界一思っていた。
ほそい腰とか、ふわふわの髪とか、子供みたいなキス、音楽や服のセンスから言葉のひとつひとつまで大好きだった。
ふたりでぎゅうと抱き合って寝ながら
あいしてるって何だろうね、と話したことをよく覚えている。
なんだか言葉にすると安っぽくなってしまって、あいしてるはお互い言わなかった。1度も。
先輩の車の後部座席に並んで乗っていた時のことも覚えている。余計な荷物がたくさん乗ったくろい車で、窓はどれも全開だった。夜で、海のそばを走った。ふたりの先輩は前で陽気に喋ったりうたったりしていて、わたしたちは後ろでくっついていた。
ぽろんぽろんというギターに合わせて、高い声の男の人がやさしく歌う曲が流れていた。
その歌をきく度に思い出す。涙すらでそうになる。
わたしはとても、とてもひとりのひとを好きだったんだ。