アドレス
ふるる
つっくりと沈黙する
午前二時
さっき私の刻印は
あの人の部屋に残されただろうか
釣り人の手から
魚はからだをアコーディオンのようにくねらせ
逃げた
そんなふうに
手放したかつての
私の刻印は
鮮明でない写真に刻まれている
犬と一緒で笑顔
友人の陰に隠れ
逆光に沈むかたち
閉じた目の裏を
それはうすらになりながら
泳ぎ去る
呼び止めることができない
方法を知らない
それは私よりとても若い顔
私より哀しくて
私よりさびしかったはずだ
手放した手で海水を
かいてみても
3Dに手を伸ばしたように
何も触れない
どこかの
古い部屋が燃えていて
午前二時の空を焦がす
焦げた匂いが充満する
部屋に
白い魚が燃えながら立っているような気がする
今さら私の刻印は取り戻せない
あの時代には携帯電話がなかったので
アドレスも
知らない