夜に歩けば
あまね
昨日をかばんに詰め終えた
坂道 秋の木立 四種類の蝉の歌
清掃工場の煙突と浄水場のタンク
ダンスを始めた稲穂たち
鎮守の丘と用水路
高速道路の高架橋
思い出の風景をぜんぶ閉じ込めて荷造りを終えた
明日を目的地に
踏みしめて進むための今日の道がずいぶん茫漠で
足が竦んでしまう
書きかけの手紙 読みかけの本 不実な恋 食べ損なった朝食
ぬかるみは果てしない
明日への旅路は困難だ
減らしたくない荷物が重いのだ
今日に居場所のない思い出たちを
ここに置き捨てるのはあんまりだから
でも
埋もれた左足を引き抜いて踏み出すころに
右足はからまってからめとられて
動かせなくなってしまった
泣き始めた荷物を
仕方なくほどいたけれど
思い出たちは今日に散乱して
泣きやまなくて
今日はすっかり昨日になってしまった
悲しかったこと
さびしかったこと
痛かったこと
苦しかったこと
本当は思い出したくなかったこと
置いていってくれよう、
もう置いていってくれようと
泣く
昨日の声が
まっくらの空にこだまして
ぼくは途方にくれる