うそっぱちぶっくす
真島正人
夜と夜を縫い合わせて
足を組み替えて
電車のシートで眠った
体中の
軟骨に混じりこんだ鈍器が
ゆっくりと再整備されるような気がした
嘘っぱちばかり
書かれた雑誌が
僕の頭の中で
開かれた
読んでいるのは誰だろう
どんな顔をして
読んでいるんだろう
そいつはきっと
薄ら笑いを浮かべて
目から涙を流しているに違いない
涙は青い
涙は若い
涙は白い
涙は老人だ
涙はもろい
涙は恐ろしい
涙にばかり頼っているから
そいつは
涙そのものになりかかっている
存在の色合いが薄れ
大気に混じりかけている
そんな調子だから
僕の中に入り込んで
僕の脳みそから発生する
電気の海でしか
生きられないのだ
存在の色合いが
薄れてしまうってどんなのだろう
僕たちと
大気との境目には明確には
何があるのだろう
唾液が口の中で流動する
舌の上を
波打って進む
そのとき唾液は
皮膚とも
空気とも
隔てられている
ねとねとの粘着質を
保ってもいるのに
また眠れない夜がやってきた
また
ため息が夜になった
僕が口をあんぐりとあけると
口の中から
漫画の浮き出しみたいな
夜が生まれる
ぽこんぽこんと
鳥の卵みたいに生まれていく
その夜は
僕の過ごす夜とは混じらないし
君の過ごす夜とも混じらない
(だって君と僕とは同じこの世界にいるから)
でもその夜の中にもっと小さな
僕がいる
君がいる
僕は机に向かっている
居眠りの途中だ
君はベッドで
ラジオを聴いている
電波塔に思いをはせているんだね
僕は
空想の世界の中で
素敵なはさみと糸を持っている
それで夜と夜を縫い合わせて楽しんでいる
すごく楽しいんだ
一日中そのことを考えて
笑顔が絶えないぐらいだ
(昨日だって職場のデスクで、笑いをこらえるのに我慢していたんだよ)
夜が向こう側にある
夜があちら側にある
大きな僕の手のひらで
二つを捕まえて
ひとつにしてしまえ!
これはすごいぞ!
大成功だ!
でも
僕は足を組み替えている
深夜の地下鉄の
緑色のシートの上で
うとうとしている
これはいったいどうしたことだ
僕は
夜の最中にいる
さっき
そんなものは手のひらに収めて
くっつけたはずなのに
僕は僕の手のひらで
くっつけた夜の中に
取り込まれてしまったのだろうか
それとも
ここは違う夜なのか
あたりを見渡しても
みんな知らん顔
サラリーマン
飲み会帰りの学生たち
美容師ふうの若い女の子
みんな知らん顔して
おしゃべりしたり
眠ったり
漫画を読んだり
している
僕の手のひらにも
雑誌が一冊あったぞ!
ちょうどいい
これを読んで
あいつらに溶け込んでやれ!
僕は
そう思って雑誌を開く
見出しのタイトルには
嘘っぱち
ばっかり書いてある