光井 新

 僅かな隙間から見える向こう側は病室だった ブラインドを抉じ広げる白い指は冷たい
 見つめる一つの瞳は赤だけを映していて 僕は濡れながら踊る事ができた ゲリラ豪雨が硝子を歪めていたから 包帯で隠されたもう一つの視線に虹を見ていた少年の日
 スケッチブックを色鮮やかに染めたくて 手を汚していた クレヨンは苦手な筈なのに その臭いが滲み付いて取れなかった 息を止めて笑う事が苦しくて仕方なかった 一枚の絵を何度も書き直した 失敗しては丸めて 投げて 紙飛行機にして遠くまで飛ばせばよかったと後悔をした
 彼女こそが母であり 心電図の停止が静かに 初恋に終わりを告げる
 夏の曲がり角 胎内に 屈折した陽が沈み 涙が溢れていた
 宇宙は水晶玉の中に 魔女の手で閉じ込められ 父親に似た科学者が魔女の暮らすフラスコを揺らす


自由詩Copyright 光井 新 2010-08-24 23:06:56
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