弱冷房
中原 那由多

時の価値を忘れてしまった代償に
時計しかない部屋へ閉じこもった
裏庭に咲いている白い花の名前を知らないから
切り捨てることの潔さを知ろうとすることで
丸くおさまると決めつけた

だから今、秒針の音がやけにうるさいのだろうか


気に入らないものを素因数分解してみて
最後に残る嫉妬の色は決まって
自分の好きな色だった

脆い心臓を隠しているのは
鋭利な骨と冷たい皮膚
左腕に走った痺れは
草むらで引っ掛かった蜘蛛の巣のように
柔らかく、焦れったい


重力にからだを預けて
小さな鼓動を聞いている
擦りガラスがガタン、と揺れて
かろうじて己がここにある

焦燥感に襲われて
肩を掻きむしることはもうないが
訴えかける悲鳴も秘密の暗号も
要らなくなってしまったようだ


誰かの呟きを暇潰しにする現在
他人事を深追いしてしまい
欲望が割れる音を聞いている
耳を塞いでも止まらない震え
夢見ることさえ馬鹿馬鹿しくて

自ら壊してしまおうか

口先だけの平行世界を
込み上げてくる笑いを足場にしながら




自由詩 弱冷房 Copyright 中原 那由多 2010-08-22 16:13:40
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