話はそれからだ!
真島正人
君は取り違えてしまった
なぜなら
「そのときをきちんと見ていなかった」
からだ
君とは
僕のこと
僕は知らなかった
あの頃何が出来たのか
あの頃なぜそうだったのか
あの頃と今がどう違うのかを
比べることが
出来なかった
比べる術を持たなかった
深夜
タクシーに乗り込む
運転手が
80年代を語る
僕は
「文化は?」
と問いかける
その頃
僕の知りえないような
今からかけ離れた文化が
どこかで花開き
それを享受していた人々がいて
その種子は失敗したのか
だが
運転手は
うれしそうに
イメージキャバレー
について語る
それが彼の享受した
80年代のすべてであるかのように
けいおん!!
が
最終回
近いぞ
だからがんばって
深夜2時までに家に帰った
だが畜生
もうこれは
大して面白くないぞ
唯は
「馬鹿な自分」の
ロールプレイの溝に
落ち込んでしまった
馬鹿!
なりたい自分になんか
なるな
アイデンティティの迷路に
食われてしまうな
この
馬鹿!
深夜2時の
「ネオンの海が侵食する」
というありきたりな
ロールプレイに自分を沈めてみようか
目を閉じれば
ふいに
ラジオの音階が変化する
ECMの
無音
が
鎮座している
「無音よりも美しい音」だってよ
へへへ
と
笑った学生時代
僕は
高槻の山奥に沈んでいた
この身を横たえて
青春を担保に入れて
脳みそを回復させていた
そんな僕は今
皮膚呼吸の最中
体中をもう一度
取り戻して
愛の矢でも射なくちゃ
僕は何も出来ない小者
矮小化された
狭間の世代
緻密からも
高度からも
戦略的ポップ性からも
遠く隔てられ
まるで雪山の
遭難者だ
暑苦しい上着の中に滑り込んだ粉雪を
大切にして捨てられない
小心者のディレンマを抱えた
憂鬱なとび職のようなものだ
僕
僕よ
今夜
飲みたまえ
そして体中の波を
世界と対応させろ
話はそれからだ