夜羽行
木立 悟
夜のなかの 鳥と楽譜
路地の壁に またたく音
ひとつとふたつを
くりかえす白
氷のはざまが
碧で居る
あともどりできない
くちづけをする
かさぶたが
虫のように水へ沈む
耳のように 髪のように
うたい 消える
とるにたらないおのれのあつまり
水辺へ水辺へ敷きつめて
二重の朝や影の影
星の輪郭のふるえを聴く
隔てられ 向かいあう
無音の双つの暴動の
壁の弾痕をたどる先には
不確かな柱がそびえ立つ
尽きることのないうそいつわりが
夜へ夜へ流れゆく
曇をなぞる指にわずかに
骨を見わける揺れを残して
ひとつの皿に溶けあう鳥
未来の草へ 見知らぬ頬へ
語りやまぬ
鳴きやまぬ
星のにおいに含まれた
ひとつの巨大な骨の行方
うたや言葉の層の下
響き響き 響きつづける
たたむともなくたたまれて
手のひらのいちばんやわらかな
息の柱の立つところ
夜にはばたき かがやいている