透視図法
佐々宝砂

家族愛はすべてこれを禁ずる。
愛は諍いの源であり、
家族を無謀にも守ろうとするときの愛こそは、
もっとも危険な諍いを生むからである。

落ちてゆく者は、
落ちるがままにとどめる。
かれを助けんとする者は罰せられ、
短縮法のひずみに囚われる。

かすんでゆく過去は、
かすんでゆくに任せる。
それらを強引に明らかにしようとする者は、
消失点の彼方に葬り去られる。

うがった物言いは賞賛されるべきである。
大きな嘘は大きいほど賞賛されるべきである。
嘘は諍いを生まぬ。
真実は諍いの源である。

透視図法の国家に真実は存在しない。
あるいは存在を認められない。
本来は透視できぬものを透視する虚偽によって、
透視図法の国家は成立する。

再び言う、
家族愛はすべてこれを禁ずる。
何者も守ってはならない。
この言葉もまた、

守られてはならない。


自由詩 透視図法 Copyright 佐々宝砂 2010-08-21 03:02:31
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