エリーゼのために
たもつ

 
 
窓ガラスに
幼い指紋がついていた
指紋をめくると
それは昔の日記帳だった
歩道橋で終わっていた
日記の続きを書くために
歩道橋を最後まで渡り
階段を下りた
まだ小学生で
ランドセルを背負っていた
町内に一軒しかない電気屋に入ると
薄い青色の冷蔵庫の前に立ち
いつものように扉を開ける
いつもと同じオルゴールが流れる
ずっと憧れていた
それが店主のいたずらであったと
数年後に母から聞かされた
幼い指紋をふき取る
窓ガラスは水晶体になり
やがて角膜に覆われ
自分の眼となった
瞼を閉じてみた
 
 


自由詩 エリーゼのために Copyright たもつ 2010-08-19 23:01:31
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