熱帯夜
木屋 亞万


白球を追う
その中に小さな骨が入っている
太陽は肌を溶かしていく

皮膚を腐らせて
骨がむき出しになった女は
化粧の下地で隠そうとする

服を着たままでも興奮していたものが
下着姿でないと刺激を感じないようになり
そのうち真っ裸でも何とも思わないようになる
「骨になれれば」と言って恋人は消えた

祭囃子の音はするけれど辺りは暗い闇ばかり
花火の音は聞こえてくるが、夕立はまだ止んでいない
朝になっても夕暮れが終わっていないので
たぶん今年の夏休みはまだ始まっていない

何事にも熱くなり過ぎないように
熱中症で死人が出て騒ぎになるくらいだから
枯れた木のように日蔭の石のように冷たくいよう
血肉がどれだけ熱くても、骨はずっと凍ったまま

ゴム球を弾ませて、薄い乳房を浴衣に秘める
帯で押さえられた曲線は提灯の火に見え隠れする
金魚の水槽の周りにできる水たまり
ぬかるみに足を取られた女にスケベは心を奪われていく

冷たい乳房が欲しい
キンキンに凍った乳房と膣が
冷たい陰茎が欲しい
ガリガリ君のように凍った棒が精液のかき氷を吐く

風鈴は都会から姿を消し
どの家も窓を閉め切って
内側を冷やし外側に熱風を出す
自分だけがよければいいように機能する機械に
新人は染められていく

むかしむかしのあるところ
少し未来の文明都市
よく知りもしない遠くの国
もうそこにしか人間はいない

排ガスと熱風をまき散らす車
川も生き物もせき止めるダム
風を通さない高層ビルと
熱を集めるアスファルト
生き物の気配はない

人間らしい人間は
もう文章の中にすら
なかなかいません

熱い夜に骨が溶けてしまいそうで
皮膚は熱く、汗一つ出ない
死ぬときに自分のために泣くものはいない
自分すら泣かない
舌が苦い熱帯夜


自由詩 熱帯夜 Copyright 木屋 亞万 2010-08-18 01:37:33
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