透明人間
くなきみ

誰も僕のことなんか見えてない
僕の体はちっとも透明じゃないのに
僕とすれ違う人達は
僕の体を通り抜けるように過ぎていく
僕が腕を掴んでも
まるで木の枝にでも引っかかったかのように
僕の手を振り払って去っていく
大声で叫んでも誰にも聞こえてないみたいだし
暴れても誰も止めてくれないのだ
まるでこの世界には僕がいないみたいだ
僕は何とかして自分の存在の証を残そうと
町の中心にある一本の大きな木を倒してしまおうと思った
そうすれば皆が僕の存在に気づいてくれるはずだ
そう思ったのだ
僕は一晩かけてようやく木を切り倒した

とうとうやったぞ
町のシンボルである木を切り倒したんだ
こんな悪いことをした僕を
皆気づいてくれ

朝になって僕は意気揚々と町に出た
でも皆は相変わらず僕を見てはくれなかった
町のシンボルである木なんて
最初から無かったかのように
誰も悲しんでいるようには見えなかった
結局僕は今までと変わらなく
誰からも気づいてもらえないままだった
こんなことなら木を切り倒さなければよかった
僕はこの町で一番
あの大きな木が好きだったんだ



自由詩 透明人間 Copyright くなきみ 2010-08-12 16:48:25
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