ノート(紙の花)
木立 悟






  うすむらさきの川に指をひたしたまま
  舟が帰らぬことを願っていました
あなたは何故そんな
紙の花のようなことを言うのか


とうの昔に終わっていたのに
今がはじまりだと信じていた
あなたのからだの
嘘が生まれ来る場所に
じっとじっと手をあてていた



水に浮くのですか
  はい 底に
それは沈むというのです
  でも何処にも着いてはいません
境に居ることを
浮くというのです
  ではわたしたちは今
  沈んでいるのですね



鍵を忘れて戻る途中に
無数の舟とすれちがった
花のようだった
布のようだった
濡れた指のようだった


より遠く より透く
水をめぐる路の午後
うすむらさきの紙の群れ
川を覆い 消えてゆく


河口の家がある日なくなり
歌っていた人は何処に居るのか
川辺に座るうしろ姿
暮れに沈むようだった
















自由詩 ノート(紙の花) Copyright 木立 悟 2010-08-11 23:02:12
notebook Home 戻る
この文書は以下の文書グループに登録されています。
ノート