レンジ電子 (想起させるものに、忠実に)
乾 加津也

ほんとうは
レンジであたためなんてとんでもない
だーくな箱の中にとじこめて
ボタンを何回かピッピピッピ押して
なにかされるんです
ひきつって声も出ないたぶん食べものが狂い死んで
あたためられて出てくるんです

それをむき出しの歯でガツガツ食べて
たぶん何かの赤外線の親戚みたいなものの返り討ちにやられて
どこかの臓器が焼けただれるんです
でれぇ〜ってなるんです
医者にみてもらうのだけれど
「どこも悪くないですよ」といわれるのはわかってて
そうやって人間不信もはじまるんです

みんなひとりひとり他人だから
じぶんのレンジでチンしあって
いきるためなら何でもするんです

いつかの鶏は箱の中に押しこめられて
白目むきだしになっているのにちゃっちゃとやって
におい満タンでかえってきたんです
蒸気も味のうちって笑って食べるものだから
コンセントばかり埋め尽くされちゃうんです
それも油でぎとぎとに

温暖化がレンジの中ではじまると
みんなこぞって喜ぶんです
テレビのボリューム全開にして
お笑い芸人だってしゃべくりまくりです
きっと彼らもレンジでチンですよ
もう、がまんならない
いまは多機能なんだから!


自由詩 レンジ電子 (想起させるものに、忠実に) Copyright 乾 加津也 2010-08-11 17:32:17
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