下り列車
たもつ

 
 
公園の水たまりに小さな魚が一匹いた
海水魚のようだった
昨晩の雨に迷って
ここまで泳いできたのかもしれない
このままでは水が干上がってしまう
魚は少しずつ弱っているように見える
自分の家には
魚が飼えるほどの海もないし
かといって容器などに入れて
家が海臭くなるのも嫌だ
仕方なく水たまりごと両腕に抱えて
海に帰すために駅へと向かう
いつもの出勤とは反対ホームの下り列車で
海まで行くことにする
会社には体調が悪いと連絡を入れておいた
誰が、とは言ってないので嘘にはならないと思う
列車は通学中の学生や通勤途中の人たちで
多少混んではいたけれど
あと五つほど駅を過ぎれば
おそらく席に座れるはずだ
そこから更にいくつかの駅を過ぎると
車内に残っているのは
海に用事のある人だけだろう
 
 


自由詩 下り列車 Copyright たもつ 2010-08-10 20:17:32
notebook Home 戻る