裾をめくった
嘉村奈緒
人体模型を誘拐した時
何か 黒いものがその筋肉に付着しているように見えた
今となっては少しだけ思い当たる
下着を見られた 夜だ
あれは
◇
そんなに見られて 恥ずかしくないのか
テトラポットの影に隠れて数秒後の
テトラポット型の目先で裾をめくりあげて
かの夜は燃え上がったぜ、と男はカシャリと錆びた
錆びたプラスチックの向こうで
恥ずかしい裾はめそめそしながら
「あんた ここは塩からいね アンモニア部屋を 思うよ」
◇
片手間で
いつもカーテンが閉められる音が聞こえた。女のスカートはカーテンのようなものだと男は言った。
男の顔は漫画みたいにペラペラで、瞬きをするたびに違う形になっていくのを静かに観察した。
カーテンが開いているときは真昼だった。女も明るいのだろうか。
閉められたり、開けられたりして、忙しないものなのだろうか。女というものは。
それから女のスカートの裾をめくった。わたしが見たもの、あれは、
◇
夜は肥大していって
わたしの部屋は夜になった
手探りで人体模型を引き寄せる
関節と関節の隙間から海の匂いがする
夜な夜な、どこに行くのだ、おまえは
恥ずかしい顔もせず
おまえは、まるで漫画のようだ
おまえは、裾をめくるのか、などと言って
話し掛ける
そうじゃない時は、夜の裾を
めくる
裾をめくりあげるとめそめそし始めるので
女みたいだな
と思う