造船家 —レンブラント画より—
非在の虹
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老いた造船家の仕事部屋は紙と鉛筆と分割器が置いてあるだけだ。
そして窓の夕暮れの光。充分な設備だ。
なぜなら造船家は夕方にしか仕事をしないとされているから。
それに造船家が設計する船は非常に単純だ。
なぜなら船は家畜しか運ばないから。
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彼は極めてつまらない線を引く。
線の色が紙の色と区別できなくなる頃、設計図は完成するが
それは見たところ舟と云うより日本の家紋を連想させてしまう。
つまりこの時代の船は球形を基本としていると云う事が出来る。
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仕事を終えた造船家は満足げに机の下のもぐり込む。
これから不らちな家畜と眠るためだ。
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或る日、家人が一枚の小さな紙片を持って来る。
それは何ごとか「伝言」であるという事だ。
彼はそれを運ぶ船を設計するのだ。
前述のようにこの時代の船の役割を考えると画期的な事で
造船家にとってこれほどの栄誉はないだろう。
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しかしなぜだろう。造船家は緩慢な動作で夕日の差し込む窓を閉じ
机の下で不らちな家畜を抱きしめたまま永遠に動かない。