夜の虹
たもつ
夜汽車が乾いた舌を出して
すべての生き物の上を
通過していく
右手にいる花崗岩の軟体動物が
左手に移りたがっているのに
左手はまだ
公園の砂場で遊んでまま帰ってこない
雨上がりの夜空に
うっすらと虹がかかっている
消える前に願い事をすると
叶うと言われているけれど
そのためにはきっと
誰かの何かが失われるのだろう
出口を探せなかった甲虫が
冷たい銀行の床の隅で
亡骸にのみ許された沈黙を保ち続けている
もしかしたら既にその遺伝子は
柔らかい土の中で
卵となっているのかもしれない
メガネをかけている人を
ひとり思い浮かべてください
と言われる度に
違う人を思い浮かべてしまう癖が
今でもまだぬけない