ぼくらの原始人
yo-yo

耳を立てて
虹の匂いを嗅いでいる
そのとき
雲を背負って
ぼくらの原始人が現われる


原始人はときどき血痰を吐く
ひそかに獣を食ったのかもしれない
あるいは体の中に獣がいるのかもしれない
おれは退化しつつある人間だ
と彼はいう
エクセルの操作も忘れた
もう敬語も使えない
ひげも剃らない


川岸に並んで小便をする
砂のちんぽは青い唐辛子ばかり
ひとりだけ毛が生えている
首がみじかくて猫背
歩くのも泳ぐのも鈍重
だが古い時代を知っている


水よりも青い
夏の空は蜻蛉の空だと
原始人がいう
水から生まれて水に帰る
蜻蛉の羽は空の地図のようだ
川面に落ちると
ぼくらも空を見うしなう


川で生きる
石を投げて胡桃の実を落とし
殻を砕いて食べる
すべて石の作業だから石器時代だ
口の中に砂がのこる
夏は夏だけを生き延びる


夏の終わり
川は精霊の道となり
死者たちを送る
河童になった少年は帰ってこない
でも泣くな
きみらには秋がある
と原始人はいう
おれは夏が終ればいきなり冬だ
冬は裸では暮らせない


焼けた岩を抱いて
冬をおもう
背中の雨はやがて
美しい光の粒となって空に散る
川から生まれた虹は
苔の匂いがする


空の橋を渡る
白い夏の背中が見えた
うつむいて横断歩道を渡るひとも見える
猫背のままで
公園の林へ消えてしまう
あれから
彼に会っていない





自由詩 ぼくらの原始人 Copyright yo-yo 2010-08-06 12:10:07
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