箱入り猫娘
N.K.
ひとしきり 遊んだあとに娘は
本へ目を落としていた私に 突然
これ はこ?と聞く。
本の入っていた段ボールの空き箱を指さして
ロシア・フォルマリズムから日本の
8月の自宅の居間へと
引き戻された自分には
ずいぶんと 深いところから
発せられた問いのようにも聞こえてしまい
そうだね
そして 君は ねこだね。
と試しに少しはぐらかして
答えてみる。
(だって いつも君は気まぐれで
父親に寄り付かない時もあれば
突然 ピタッとくっ付いてきたりするから
ね。)
はこ と ねこ
似ていないかな。
烏賊と異化ぐらい似ているかな。
暗喩だとしたらどうなるかな。
これは はこで 君はねこ。
繰り返したら 小さな君は もそもそ
始めて そうして すっぽりと
段ボールの中に入ってみせて
猫と箱とを一つにして見せた。
これは はこで 君はねこ。
これは 命令文ではないのだけれど
猫が箱に入っているの?と聞いてみると
割と真剣に君は頷いて
言いたかったのはこういうことでしょ?
という顔をしていた。